RePort.NO.2-02
応答番号:2022-04XX
種別:レポート NO.M-02
観測-2018.04
出力-2022.04
-■■■■■■内のレコードを参照、復元します
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渡里 「ケントは?」
ガイド「KENTOは向こうのバザールを見に行っているよ。KEIも行くかい?」
渡里 「後でね、先に教会に行きたい」
(青々と広がる丘の先を見て)
渡里 「この村に来た時は、必ずあの教会と裏手の庭を撮るのが習慣でねえ。
でも、牧師さんに挨拶できなかったのは残念だな」
ガイド「あの人も随分なお年だからね。
僕が敷地訪問の許可を取りに行った日は、庭の世話をしていたんだけど」
渡里 「そうかあ」
(眼鏡をかけた青年の背にはギターケース、首からは立派なカメラが下がっている)
ガイド「初めてじゃないだろうから念の為、だけど」
渡里 「裏庭の先は撮影禁止ね」
ガイド「そうそう」
ガイド「そういえばあの教会には、教会の敷地全体で、
撮影をしちゃいけない日、があるのも知ってるかい?」
渡里 「うん。あの教会に初めて行ったとき、
撮影の許可を求めた際に伝えられたよ~。なんでも――」
(青年は目を細めて薄く笑う)
渡里 「天使が写ってしまう日があるんだって?」
ガイド「そう、7月の半ば、ある時期だけ」
渡里 「会ってみたいけどねえ」
ガイド「ダメダメ!僕が小さい頃から、ずっと言われてることなんだ」
(教会に続く道を行く、日本人の青年と現地ガイド)
渡里 「この村は――」
(青年が立ち止まって振り返り、賑やかな村の風景を見下ろす)
渡里 「僕が仕事を辞めて、全てを放り出して、
カメラとギターだけもって旅に出た、
その途中にたどり着いたところでね」
(風)
渡里 「皆温かくて……よそ者の僕を大事にしてくれて」
ガイド「そうだろうね。この村はもともと、よそ者が作った村なんだ」
渡里 「そうらしいね」
ガイド「僕はこの村で生まれたし……当時からはもう何世代も後になるから、
今は随分変化しているのかもしれないけど、よその人も大事にしよう、
歓迎しようって文化は、残ってる」
渡里 「本当に、素敵な場所だよ。
だからこそ、僕はここで、撮影したかったんだ」
ガイド「ミュージックビデオの、か」
渡里 「うんー」
(下の方が騒がしくなる。
バザールで買った食べ物を手にした若い男が、
教会への道を見上げてガイドと渡里の二人に手を振る)
小夜 「けーいーーーっ、このお菓子うまーーーい」
渡里 「はいはい、食べながら歩かない」
ガイド「ははは」
ガイド「どんな曲なんだい」
渡里 「今度の?」
ガイド「ああ、この景色を組み込む曲さ」
渡里 「あの曲は――、」
(渡里が目を伏せる)
渡里 「一応、応援歌なんだ」
ガイド「いいね。何かにむけた歌なのかい?」
渡里 「ああ、とある映画のテーマソングでね」
ガイド「すごいじゃないか。どんな映画?」
渡里 「あれはそうだねえ」
渡里 「別れの話だ」
ガイド「別れ……」
渡里 「ああ、――"別れを告げる物語"だ。
あの映画は紛れもなく世界が僕らに、永劫に別れを告げる為のものだよ」
ガイド「???バッドエンドで、世界は崩壊してしまうのかい?」
渡里 「いや」
(目を開けた渡里はおもむろにカメラを構える)
渡里 「別れ、だけど僕はあの脚本を、
喜劇(ハッピーエンド)だと思ったよ」
ガイド「……??」
渡里 「ふふ、ブルーレイやDVDが出たら、持ってくるよ。
それで一緒に見よう。僕らの曲も最後にかかるはず」
ガイド「それは楽しみだ、KENTOや他のスタッフも一緒にね」
渡里 「そうだね」
(爽やかなシャッター音)
渡里 「ケント、最後のサビ後のフレーズだけまだ気に入ってないっていってたけど」
ガイド「ええ?そうなのかい?!完成したと思っていたよ」
渡里 「一応したんだけど……そこだけ書き直したいらしいんだ」
(渡里は困ったと眉を下げながらも、微笑む)
渡里 「旅の途中で、何か見つかるといいんだけどね」
ガイド「差替えがきくうちに、ね」
渡里 「うーん、ほんとだよ」
(石段の上にいる二人を爽やかな風が撫でる。渡里はその空気に流すように、言葉を吐く)
渡里 「――『僕らは悲しみを、希望で潰そうとする』、か」
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